先日、Kindle 3 3G+WiFi を買いました。2010年8月下旬に米Amazon.comに注文し、約2週間で届きました。発表時からずいぶん迷いましたが、円高に背中を押されたようなものです。
英語の学習に使えるとか、ソーシャル機能があるとか、Kindleのレビューはたくさんあります。そういったことは置いておいて、ここではごく個人的な感想をまとめておきます。さまざまな機能をすべて使ってみたわけではありません。
結論
はじめに結論を書いておくと、Kindleは「使えません」。買ってしまったからには、強がってでも「使える!」「すごい!」と言いたいところですが(笑)、まだまだ発展途上のデバイスでした。いろいろなメーカーが参入して、選択肢が出そろってから買うのがよいのではないでしょうか。
実は、Kindleを買うにあたって、ある洋書の購入が頭にありました。その本は、Amazon.comで、紙版の半額程度でKindle版が販売されています。それなら、おトクなKindle版を購入してみようと考えました。しかし、Kindleをさわっていると、不思議なことに紙の本の良さが際立ってくるのです。結局、その本はKindle版ではなく紙版のほうが良いことがわかったので、紙版を注文することにしました。もちろん本の性格によっては、Kindle版を選択することもありえます。
Kindleを使うと、ふだんつきあっている「紙の本」が相当便利だということに気がつきます。数百年かけて進化した書籍というパッケージが、そう簡単に置き換えられるとは思えません。もちろん電子書籍にも、電子版なりの良さがあります。ただ、今年はとくに電子書籍に関しては、ビジネス的な喧伝や脅威論が目立っていて、紙の本の良さを冷静に見る視点を欠いています。これからは、本の性格によって、紙版と電子版のそれぞれの良さをいかした棲み分けが徐々に進んでいく気がします。
電子ペーパー
Kindleは、画面にE Ink社の電子ペーパーを採用しているのが最大の特徴です。この電子ペーパーには、メリットとデメリットがあって、それがそのままKindleでの読書体験に影響を与えています。
電子ペーパーのメリットは、液晶のように発光していないので、目にやさしく文字が読みやすいことです。直射日光の下でも、読みづらくなることはありません。反対に、暗闇のなかではまったく読めません。このあたりは、紙の本とおなじです。
文字だけでなく、イラストもきれいに表示できます。マンガには最適かもしれません。スクリーンセーバーでさまざまな文豪の肖像画が表示されますが、とてもきれいです。
Kindleの電子ペーパーのデメリットは、カラー表示ができないことと、ページの書き換えが必要なことです。ページの書き換えとは、ページをめくるたびに、画面全体が反転して表示をリセットすることです。このとき画面全体が、黒くちらついてしまいます。書き換え時間は一瞬なので、ゆっくり読んでいるときには、さほど気になりません。ところが本全体を速読・ななめ読みしようと、ページを素早くめくろうとすると、そのスピードに追いつくことができないので、ストレスを感じます。
Webブラウザを使っているときなど、ときどきこの書き換え処理が十分になされず、以前のページがうっすら残って見えることがあります。履歴が積み重なっていく独特の「残像効果」は、視覚的になかなか面白く、「いい味」を出しています。とてもデジタル機器とは思えないアナログ感がにじみでていて、なつかしい感じです。まるで、こどものときに使った、繰り返し描けるお絵描きボードの「せんせい」のようです。ちょっとマニアックな見方ですが、きっと、この残像効果をつかって、Kindleでしか見ることのできない作品がつくられることでしょう。
操作性
Kindleは、左右についているページ移動のボタンと下部に配置されている小さなキーボードで操作します。左右のボタンは大きく、迷わず押せるのはよいのですが、持つ場所に困ります。キーボードは、なんと数字キーが省略されてしまっています。画面は、日本語表示には対応していますが、インタフェースは英語です。iPhoneやiPadに慣れていると、つい画面を指でさわってしまいます。操作性に関しては、改善の余地がありそうです。
Kindleでは、PDFを読むこともできます。ただしKindle向けにサイズが最適化されたものでないと、狭くて読みづらいです。A4サイズのPDFを読むには、Kindle DXくらいの画面サイズがほしいところですが、DXだと重いんですよね。大きなサイズのPDFを読むときには、ページ内を拡大表示できます。でもスクロールするたびに、画面の書き換えが発生してしまい、実用的ではありません。裁断・スキャンした「自炊」の本も、文字の大きさによっては読みづらいと思います。
ネットワーク機能
Kindleには、Webブラウザが内蔵されています。将来はわかりませんが、現時点では無料で3G経由でWebにアクセスできるようです。ただしWebブラウザは、あくまで「実験機能」の一つです。読み込みスピードも遅く、使い勝手はよくありません。
3G機能があれば、どこでもインターネットに接続することができます。しかしKindleは、あくまで読書の道具です。読書中にはインターネットを使う必要はないので、3G機能は余計なものという感じがします。ふだん使う場所にWi-Fiがあれば、Wi-Fi版で十分です。
Wi-Fi接続には、問題がありました。自宅のTime Capsule(セキュリティはWPA2)には何度接続してもうまくいかないのです。DHCPではなく、IP直接指定の設定にしても接続できませんでした。パスワードを変えて試せば、うまくいったかもしれませんが、そこまではしていません。このルータに接続できない機器はKindleだけなので、Kindle側の制約か不具合ではないかと思います。
電子書籍リーダーはだれのため?
現在、日本語Kindleストアは登場していないので、Kindle経由では日本語の書籍や新聞を購入することができません。それはさておき、Kindleのような電子書籍リーダーは、どんな人にとって便利でしょうか。
(1) 旅が多いひと
移動中や旅先に読む本や雑誌を、リーダーひとつに集約できると、ずいぶん身軽になれそうです。
(2) 田舎のひと
旅先にも通じますが、電子書籍リーダーの恩恵を受けるのは、田舎に住む人ではないでしょうか。都会の人は、Kindleがなくても十分便利な生活を送れます。駅の売店で新聞雑誌を買い、書店で話題の新刊を立ち読みし、興味があれば買って、読んでいらなくなったら古本屋に売ればいいのです。なにも、わざわざ電子書籍にシフトする必要はありません。
しかし、ある程度の田舎に住んでいると、紙の本に囲まれた生活ができません。書店がなく、新刊書籍に簡単にふれることができないような町に住む人にこそ、電子書籍リーダーは福音をもたらしてくれそうです。
そういえば1990年代はじめ、田舎に住んでいた高校生だったわたしは、クロネコブックサービスを使って本を取り寄せていたことを思い出しました。当時は、家庭向けのインターネットもAmazonもありませんでした。あのとき、Kindleがあれば、きっと活用していたでしょう。
タカラトミー (2010-06-17)
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