MRIなるものを初体験した。検査台に身体を固定され、30分間身動きせずにひたすら耐える。検査箇所が下半身だったので、さいわいなことに、あの巨大な装置に顔面をすべて覆われることは免れた。視界をふさがれていたら、さぞつらかっただろう。
MRIはものすごい音がすると聞いていたが、じっさいの印象はちがった。
検査室の奥から、シュー、ハー、シュー、ハーという音が聞こえてくる。この音は絶え間なく規則的に反復している。機械が呼吸する生物だったなら、こんな呼吸音を出すのかもしれない。そのシュー、ハーを背景に、身体の近くから発せられるジジジジジ、ガガガガーという大音量が重なりあう。検査中はなにもすることがない。聞こえてくる重層的かつリズミカルなノイズを「音楽」として聴くことにした。耳をすませば、なかなかの作曲家による楽曲のように聴こえてくる。
すると突然、シュー、ハーが、サック、ヒン、サック、ヒンと喋りだした。「そうだよ、これは音楽サクヒンなんだ」と語りかけるように。
しばらくたつと、またシュー、ハーという機械の呼吸音にもどった。さっきのは幻聴だろう。ただの機械音でしかない。
身体が拘束されているからなのか、聴覚を研ぎすました患者の妄想はひろがる。こういう楽曲を作るのはさぞ楽しいだろうな。これを作るには、コンピュータでやれそうだな。
するとさっきの機械音が、イッチ、ゼロ、イッチ、ゼロと言うではないか。「そうだよ、これはデジタルなんだ」と主張してくる。
言いたいことはわかったから、そう何度も繰り返さないでくれないか。やがて音楽を聴くのに飽きてしまい、はやく検査が終わることを祈りだす。これ以上は耐えられないというその時、検査が終わり、装置から抜けだせた。
検査が終わっても、検査室の奥からはあいかわらず機械の息づかいがきこえていた。シュー、ハー、シュー、ハー。機械のくせに、やけに人間ぽかったな。きっといまも指揮棒を振りつづけているにちがいない。